親が施設に入ったら実家はどうする?判断の順番

進め方ガイド

親が一人暮らしをしていて施設に入ると、実家は空き家になります。残すか、貸すか、売るか。大きく分けるとこの3つですが、多くの家庭では決めきれないまま何年も過ぎていきます。

急がなくてよい部分と、急いだほうがよい部分があります。家財の全面的な処分は急がなくて構いません。ただし、傷むものや火気のもとになるものは早めに片付けてください。急いだほうがよいのは、親の希望を聞くことと、名義や書類の確認です。親が契約内容を理解して意思表示できるうちのほうが、選べる道は多くなります。

この記事では、施設入居後の実家について、かかり続ける費用、親の意思を確認できるうちにできること、売る場合の手続き、当面残す場合の管理までを整理します。当サイトは不動産会社でも介護事業者でもなく、公的資料を確認して実務をまとめているガイドです。実家じまい全体の進め方は実家じまいとは?進め方の全手順と費用相場にまとめました。

施設に入ったあと、実家をどうするか

静かな部屋の窓辺に置かれたカレンダーと鉢植え

大きく分けると3つです。残す、貸す、売る。ほかにも、親族が住む、解体して土地だけ持つ、といった形もあります。正解はひとつではありません。ただし、決めるのは所有者である親本人です。子やきょうだいが多数決で決めるものではありません。親の希望を聞ける段階で、方向だけでも確かめておいてください。まずは3つの違いを押さえます。

親が施設に入ったあとの3つの道

残す(当面そのままにする)

親が「いつか帰りたい」と言っている場合や、きょうだいの意見がまとまらない場合に選ばれる形です。判断を先送りできる一方で、費用は出ていき続けます。

残すと決めるなら、管理をどうするかまで決めてください。誰も見ていない家は傷みが早く進みます。「決めない」ことと「放置する」ことは違います。

貸す

家賃収入で維持費をまかなえるのが利点です。ただし、貸すと決める前に確認しておきたい点が2つあります。

ひとつは、住める状態にするための修繕費。もうひとつは、亡くなった後に相続した空き家として売る場合、相続空き家の3,000万円特別控除が使えなくなる可能性です。この特例には、施設入所後から相続の直前まで貸したり他の人が住んだりしていないこと、といった条件があります。

一方、親自身が売る場合のマイホームの3,000万円特別控除は、住まなくなった後に貸したという理由だけで対象外になるものではありません。どちらの特例を想定しているかで判断が変わるので、貸すかどうかは税務署か税理士に確認してから決めてください。

売る

施設の費用にあてられ、維持費もなくなります。親が契約内容を理解して意思表示できるなら、親自身が売主になって手続きできます。

この場合、生活の本拠として使わなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売れば、居住用財産を売ったときの3,000万円特別控除が使える可能性があります。判断能力が下がると手続きが複雑になるので、売る方向なら早いほうが動きやすくなります。

空き家になった実家にかかり続ける費用

家計簿と電卓を置いた食卓

施設の費用と実家の維持費が二重にかかるのが、この時期の一番の負担です。具体的には、固定資産税、火災保険料、電気・水道の基本料金、管理にかかる費用などです。金額は物件と地域によって幅がありますが、施設費用に上乗せされる形になります。まずは、いくら出ていくのかを数字にしてみてください。判断が変わることがあります。

毎年かかるもの

項目 目安 備考
固定資産税・都市計画税 納税通知書のとおり 住宅用地の特例は原則続くが、勧告を受けると外れる
火災保険料 空き家は条件が変わることがある 契約継続の可否を保険会社に確認
電気・水道の基本料金 契約を残す場合 通気や掃除に使うなら残す判断も
管理の費用 巡回の頻度と作業範囲による 自分で通うなら交通費と時間

火災保険は要注意です。人が住んでいる住宅として契約している場合、空き家になると扱いが変わることがあります。契約内容を保険会社に確認しておいてください。固定資産税の仕組みは空き家の固定資産税は6倍になる?条件と正しい計算にまとめました。

施設費用との関係

施設の費用は、まず契約の名義と、本人の収入や資産を確認するところから考えます。年金と預貯金でまかなえるかどうかで、その後の判断が変わります。

子が立て替えている場合は、いくら立て替えたかを記録しておいてください。ただし、記録があれば後で必ず返してもらえる、というものではありません。立替なのか、扶養として出したのかで扱いが変わり、後で争いになることがあります。可能なら親が元気なうちに精算しておくか、立替であることを本人と確認して記録に残してください。

放置したときに増えるもの

そのままにしておくと傷みが進み、査定や解体の条件が悪くなることがあります。庭木が伸びて近隣から苦情が来ることもあります。

行政から指導を受ける段階まで進むと、税の面でも不利になります。詳しくは空き家を放置するとどうなる?税金・罰則・近隣トラブルにまとめました。

親が元気なうちにできること

靴のそろえられた玄関と閉じた扉

親の判断能力がある時期と、低下した後とでは、本人に希望や保管場所を確認できるかどうかが大きく変わります。どれが大事なものか、権利証はどこか、預金はどの銀行か。聞けなくなると、これらが分からないまま進めることになります。親が答えられるうちに聞いておく。これが後の手間を大きく減らします。家財を急いで処分する必要はありません。聞くことと決めることを先にしてください。

親が元気なうちに確認しておきたいこと

聞いておきたいこと

施設に入って落ち着いた頃に、少しずつ聞いていきます。

  • 実家をどうしたいか(残したい、売ってよい、任せる)
  • 大事にしているもの、残しておいてほしいもの
  • 権利証または登記識別情報通知がどこにあるか
  • 取引のある銀行、保険、証券
  • 仏壇やお墓をどうしてほしいか

一度に全部聞こうとしないでください。会話の中で少しずつ確認し、メモに残していく形が現実的です。「片付けるために聞いている」と伝わると身構えられるので、聞き方には配慮が必要です。

書類を1か所にまとめる

権利証または登記識別情報通知、納税通知書、保険証券、年金の書類。これらを1か所にまとめておくだけで、あとの手続きが早くなります。

空き家に重要書類を残しておくのは、盗難の面でも避けたいところです。ただし、親の同意を得たうえで預かり、何をどこで保管しているかを記録してください。黙って持ち出すと、後で家族間の不信につながります。

家財の処分は急がなくてよい

親が施設に入ってすぐ、家財を全部処分する必要はありません。親が「帰りたい」と言っている段階で家を空にすると、関係が悪くなることがあります。

まず片付けたいのは、傷むもの(食品、生鮮品、湿気に弱いもの)です。灯油や、ガス容器、スプレー缶といった火気のもとになるものは、自己判断で処分せず、販売店や市区町村に引き取り方法を確認してください。灯油の引き取り先の探し方は灯油の処分はどこに頼む?実家に残った灯油と容器の片付け方にまとめています。とくにLPガスの容器は、供給していた販売店に連絡して撤去してもらうのが原則です。残りは方向が決まってからで間に合います。片付けを頼む場合の業者の選び方は実家の片付け業者の選び方にまとめました。

売るときは名義と意思能力が壁になる

書類をはさんだバインダーと印鑑

まず確認したいのが名義です。親の名義だと思っていたら、亡くなった祖父母の名義のままだった、配偶者との共有だったということがあります。登記事項証明書を取れば、誰が所有者で持分がどうなっているかが分かります。

親の名義なら、売主は親本人であり、子が勝手に売ることはできません。ここで関わってくるのが判断能力です。契約の内容を理解できない状態では、有効に契約を結ぶことが難しくなります。この場合に使うのが法定後見の制度ですが、居住用不動産の処分には家庭裁判所の許可が必要で、時間もかかります。

親の状態 誰が手続きするか 必要な手続き
契約内容を理解して意思表示できる 親本人が売主 通常の売買。遠方なら委任状で代理も
判断能力が十分でない 家庭裁判所が選んだ後見人・保佐人・補助人 申立てのうえ、居住用不動産の処分には家庭裁判所の許可が別に必要
亡くなった後 相続人 相続登記をしてから売却

同じ「実家を売る」でも、親の状態によって必要な手続きが変わります。意思を確認できるうちに方向を決めておくほうが、手間も時間も少なく済みます。

親が契約内容を理解できる状態のとき

親自身が売主として契約します。子は手続きを手伝う立場です。遠方に住んでいる場合、委任状で代理人を立てることもできます。

売却で得たお金は親のものです。施設費用にあてるなら、そのまま親の口座で管理してください。子の口座に移すと、そのお金が誰のものか分からなくなります。相続のときに使途不明金として問題になったり、贈与ではないかと疑われたりする原因になるので、口座は混ぜないでください。

判断能力が十分でないとき

法定後見の制度を使うことになります。判断能力の程度に応じて後見・保佐・補助の3つがあり、家庭裁判所に申し立てて選任してもらいます。保佐人や補助人でも、不動産の処分について代理権が与えられていれば手続きに関われます。

ただし、居住用の不動産を処分する場合には、家庭裁判所の許可が別に必要です。本人の生活の基盤に関わるためで、売却の必要性、価格、本人の生活状況や意向をふまえた個別の判断になります。申立てから許可まで数か月かかることもあります。売却だけでなく、賃貸借の締結や解除、取り壊しにも関わってきます。

後見人などは家庭裁判所が選びます。子が申し立てても、必ず子が選ばれるとは限りません。弁護士や司法書士などの専門職が選ばれることもあり、その場合は報酬付与の申立てを経て、本人の財産から報酬が支払われることがあります。制度が始まると、原則として本人が亡くなるまで続きます。「家を売るために一時的に使う」という性質のものではない、という点は知っておいてください。

(出典)法務省:成年後見制度・成年後見登記制度

施設に入った後に売る場合の税の扱い

親自身が売る場合、居住用財産を売ったときの3,000万円特別控除が使える可能性があります。生活の本拠として使わなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までという期限で判定されます。施設への入居日や住民票を移した日と一致するとは限りません。

また、親が亡くなった後に相続した空き家として売る場合も、要介護認定等を受けて老人ホーム等に入所していたなど一定の条件を満たせば、相続空き家の3,000万円特別控除の対象になることがあります。この特例には、昭和56年5月31日以前の建築であること、区分所有建物でないこと、入所の直前まで一人で住んでいたこと、その後に貸したり他の人が住んだりしていないこと、譲渡対価が1億円以下であることなど、細かい条件があります。対象の家屋と敷地を取得した相続人が3人以上いる場合、控除額は一人あたり2,000万円です。詳しくは相続した家を売るときの税金は?控除と計算の順番にまとめました。

(出典)国税庁:No.3302 マイホームを売ったときの特例

当面残すなら、管理をどうするか

窓を開けて風を通す空き家の室内

残すと決めたなら、勧告を受けない状態を保つのが最低限です。とはいえ遠方から毎月通うのは現実的ではありません。管理代行を使う、近隣に協力を頼む、優先順位をつける。この3つを組み合わせれば、通える回数が少なくても状態を保ちやすくなります。ただし、外から見える部分だけで十分というわけではありません。

まず押さえる項目

苦情や指摘につながりやすいのは、外から見える部分です。

  • 庭木と雑草(道路や隣地へのはみ出し)
  • 屋根材や外壁の落下、ブロック塀の傾き
  • 郵便物の滞留(不在が一目で分かる)
  • 敷地内へのごみの投棄

近隣が困るのは、まず外回りです。草の伸びる時期に合わせて手を入れるだけでも状況は変わります。

ただし、これで管理が足りるわけではありません。国の指針では、雨水の浸入、排水設備、通気や換気、清掃、封水、動物のすみつきなども点検の対象とされています。必要な頻度は、立地、積雪や台風の有無、建物の状態によって変わります。点検で見つかった不具合は、直すところまでが管理です。

郵便物と公共料金

郵便物は転居・転送のサービスを使えば、実家にたまらずに済みます。ただし転送の期間は届出日から1年で、転送不要とされた郵便物は対象外です。年金、保険、金融機関など重要な送付元には、個別に住所変更を届けてください。

電気と水道は、通気や掃除に使うなら残す判断もあります。使わないなら止めて構いませんが、冬季に水道を止める場合は凍結対策を忘れないでください。管理代行を使う場合は、水道が必要かを事前に確認しておきます。

期限のあるものを数えておく

親が存命の間は、相続に関する期限は始まっていません。ただし、火災保険の更新や、施設との契約更新など、忘れやすい期限があります。

カレンダーに書き出しておくだけで、慌てずに済みます。親の判断能力が下がる前にやっておきたいことも、期限のあるものとして扱うと動きやすくなります。

よくある質問

実際によく聞かれる疑問をまとめました。法律上の要件はどこでも同じですが、相談体制や必要書類の案内、事務の取扱いには差があります。最終的にはそれぞれの窓口に確認してください。ここでの答えは仕組みとしての一般的な整理です。

親が「帰りたい」と言っています

その気持ちを否定せずに、当面は残す判断でも構いません。ただし、管理は続けてください。傷んだ家には帰れなくなります。

一方で、家を維持する費用は親の資産から出ていきます。そのことも含めて、折を見て話していくことになります。

きょうだいで意見が分かれます

決めるのは所有者である親です。きょうだいの役割は、判断材料をそろえて親に伝えることだと考えてください。

そのうえで、費用がいくら出ていくのか、売るとしたらいくらになりそうか、施設費はどうまかなうかを一覧にします。査定は1社では判断できないので、複数社に依頼するか、公的な地価の情報もあわせて見てください。数字がそろえば、具体的な条件をもとに話し合えます。

親の預金から実家の費用を払っていいですか

親のための支出でも、子が当然に親名義の預金を引き出せるわけではありません。本人の意思確認や、金融機関が定める代理人の手続き、後見制度などが関わってきます。

意思確認が難しい状態なら、まず取引のある銀行に相談してください。そのうえで、いつ何にいくら使ったかを記録し、領収書を残しておきます。記録がないことが、きょうだい間の不信につながります。

施設に入ったら住民票は移すべきですか

施設が生活の本拠になり住所が変わったのであれば、転入・転居の届出は原則14日以内です。任意に選べるものではありません。

介護保険には住所地特例という仕組みがあり、住民票を施設のある市町村へ移しても、一定の場合には入所前の市町村が保険者のままになります。税の特例は住民票ではなく実際の居住実態で判定されるので、住民票を実家に残せば控除が維持できる、というものでもありません。入居する施設と市区町村の窓口に確認してください。

実家の鍵はどうしていますか

きょうだいがいる場合、誰が鍵を持っているかで揉めることがあります。一人だけが持っていると、他の人が「勝手に何かされるのでは」と感じることがあるためです。

スペアキーを作って共有するか、業者に預ける場合はその旨を全員に伝えておいてください。片付けや査定で人が入るときは、事前に共有しておくと余計な不信を生みません。

郵便物はどうすればいいですか

親宛ての郵便物は、施設や子の住所へ転送届を出しておくと確実です。税や保険の通知を見落とさないためにも有効です。

転送は期限があり、期間が過ぎたら出し直しになります。実家の郵便受けがあふれていると、不在が一目で分かって防犯上も好ましくありません。

相談先の使い分け

相談室の椅子と小机

相談先は内容で分かれます。施設と介護のことは地域包括支援センター、売却は不動産会社、後見の申立書類や登記は司法書士、紛争や契約上の法律判断は弁護士、税は税務署か税理士です。全部を一度に聞こうとすると混乱するので、順番を決めてください。多くの場合、いくらで売れそうかが分かると、他の判断も動き出します。

地域包括支援センターに聞くとき

介護や施設のことで迷ったら、まずここです。市区町村ごとに設置されていて、無料で相談できます。

実家をどうするかという話も、介護の文脈で相談に乗ってもらえることがあります。成年後見制度についての案内も受けられます。

不動産会社に聞くとき

「親が施設に入り、当面は空き家になる」と伝えたうえで査定を依頼します。売る、貸す、両方の見込みを聞いておくと判断材料が増えます。

査定は家財が残ったままでも受けられます。片付けの完了を待つ必要はありません。

実家じまい全体で迷ったとき

施設入居のタイミングは、実家じまいの入口でもあります。全体の費用感は実家じまいの費用はいくら?内訳と総額の目安、抑える方法にまとめました。

進め方で迷ったときはお問い合わせからご相談ください。個別の法律や税の判断はお答えできませんが、確認の順番の整理はお手伝いできます。

まとめ:聞くことを先に、処分は後で

親が施設に入ったときの実家で押さえるべきは、急ぐことと急がないことを分けるという点です。家財の全面的な処分は急がなくて構いません。急いだほうがよいのは、親の希望を聞くことと、名義や書類の確認です。傷むものと火気のもとになるものだけは、早めに手を打ってください。

親が契約内容を理解して意思表示できるうちなら、本人が売主として契約できますし、どうしたいかも聞けます。判断能力が十分でなくなると法定後見の手続きが必要になり、居住用不動産を処分するには家庭裁判所の許可も要ります。時間の経過とともに、選べる道は減っていきます。

当面残すと決めるなら、管理をセットで決めてください。放置と保留は違います。外回りに手を入れておけば近隣とのトラブルは減らせますが、雨漏りや排水の不具合まで防げるわけではありません。点検と修繕をセットで考えてください。

まずは登記事項証明書で名義を確かめ、親と少し話し、納税通知書の場所を確認するところから始めてみてください。それだけで、次に何をすべきかが見えてきます。

※制度の運用や税の扱いは条件によって異なります。個別の判断は市区町村の窓口、または弁護士・司法書士・税理士など専門家にご相談ください。

タイトルとURLをコピーしました